パーキングパーミット制度の解説

昨今、多くの人が利用する駐車場に於いて、障害者等のための駐車区画を示す白色の車いすマークが路面に描かれている区画(以下、「従来型障害者区画」と言う。)を目にすることが多くなった。しかし、この従来型障害者区画は、路面に目立ち難い白色マークだけの運用であるため問題点もあり、新たに「パーキングパーミット制度」を導入する地方自治体が徐々に広まって来ている。ただ、健常者には余り知られていないこともあり、本制度について石川県が実施している「いしかわ支え合い駐車場制度」をベースに解説する。

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制度導入の背景

従来型障害者区画には、次の問題が発生し易い。

  • 目的施設の出入口に近くに確保されていることもあり、モラルの欠けた健常者が駐車することが多く、障害者等が駐車できないことがある。
  • 十分な幅が確保されていない区画もあり、隣の区画に駐車されていると車椅子の方は乗り降りに支障をきたす。
  • 外見上障害者に見えない障害者等は、周りの目が気になり駐車し辛い。

これらの問題を解決するために「パーキングパーミット制度」を導入する地方自治体が年々増えて来ている。

制度の概要

パーキングパーミット制度とは、障害者等のための駐車区画を利用できる対象者の要件を設定し、その要件に該当する者が申請をすることにより、地域に存在するパーキングパーミット制度の区画(以下、「障害者等用駐車区画」と言う。)に対し周りの目を気にすることなく堂々と駐車(利用)できる「利用証」を交付するものである。

日本で最初にパーキングパーミット制度を導入したのは佐賀県(2006年7月)であり、2017年5月時点では36府県3市が導入している。

パーキングパーミット制度に於ける協力施設、地方自治体及び施設駐車場利用者の関係は次のとおりである。

パーキングパーミット制度の関係図

施設管理者の手続きの流れ

パーキングパーミット制度に協力したい施設管理者は、地方自治体に協力の届出を行う。 右矢印 地方自治体は、協力施設として登録し、案内表示ステッカー等を施設管理者に提供する。 右矢印 施設管理者は、対象駐車場区画に案内表示の看板等を設置し、駐車場利用者に「障害者等用駐車区画」であることを分かるようにする。

利用者の手続きの流れ

利用者は、地方自治体に「利用証」の交付申請を行う。 右矢印 地方自治体は、利用要件を満たしているかチェックし、申請利用者に「利用証」を交付する。 右矢印 以後利用者は、「障害者等用駐車区画」に駐車できる権利があることを示す「利用証」を車内に掲げて駐車する。

なお、石川県に於ける協力施設及びその施設で確保されている区画数の一覧は、コチラ(2019年2月1日現在)を参照されたし。

制度の詳細

はじめに...

日本のパーキングパーミット制度は各地方自治体が条例を定めて実施しているため、各地方自治体の制度を全て把握することは困難であり、どの地方自治体も同様な制度であることから、私が住んでいる石川県が実施している「いしかわ支え合い駐車場制度」をベースにして解説する。他の地方自治体の正確なパーキングパーミット制度を知りたい方は、各自治体に確認されたし。

また、本解説は、主に利用者側に向けた解説であり、協力施設側に向けたものでない。従って、協力したい施設の届出方法等は、各地方自治体に問合せされたし。

以下に、パーキングパーミット制度の詳細を解説する。

駐車区画の種類

障害者等用駐車区画には、次の2種類がある。

車いす使用者等優先区画

車いす使用者など乗降の際に車のドアを全開にする必要がある方を優先する区画で、通常より広い区画幅(3.5m以上)である。また、利用者が本区画であることが分かるように、路面と看板等を使用して次の案内表示がされている。

路面

背景青色で白色車いすマークが路面に表示されている。

実際の路面(車いす使用者等優先区画)

なお、本制度導入前から存在する従来型障害者区画に於いては、区画幅3.5m以上確保されていれば、そのまま利用しても良いことから区画全体に背景色(青色)がない区画も存在する。

看板等

案内表示用ステッカーが、看板、カラーコーンあるいは壁面等に貼ってある。

実際の看板等(車いす使用者等優先区画)

通常幅の駐車区画

車いすを使用しない障害、けが及び高齢等により歩行困難な方の区画で、通常の区画幅(2.5m程度)である。また、利用者が本区画であることが分かるように、路面と看板等を使用して次の案内表示がされている。

路面

背景色が緑色のマークが路面に表示されている。

実際の路面(通常幅の駐車区画)

看板等

案内表示用ステッカーが、看板、カラーコーンあるいは壁面等に貼ってある。

実際の看板等(通常幅の駐車区画)

なお、これらの「障害者等用駐車区画」は、利用対象者のことを踏まえれば当然、施設の出入口近くにある必要があり、分かり易い案内表示が求められている。更に、車いす使用者だけでなく、その他障害者や高齢者等も使用し易くする工夫として、区画幅の広い「車いす使用者等優先区画」に加え、軽度障害者や高齢者用に「通常幅の駐車区画」を施設出入口近く設置するダブルスペース方式を推奨している。参考までに、他の地方自治体の場合はどうなのかは把握していないが、石川県の場合はダブルスペースが無理であれば、「車いす使用者等優先区画」のみも可能である(「通常幅の駐車区画」のみは不可)。

利用証交付要件

利用証の交付を受けることができる対象者の要件概要は、歩行困難な次の方となる。なお、要件の詳細になると各地方自治体で違いが見受けられる。石川県に於ける要件詳細は、コチラを参照されたし。

  • 障害者
  • 難病患者
  • 高齢者
  • 妊産婦
  • けが人等

石川県の要件等の詳細

石川県の利用証に於ける交付詳細要件と有効期限は次のとおりである。

身体障害者
区分 交付要件 有効期限
視覚障害 4級以上 無し
聴覚障害 3級以上 無し
平衡機能障害 5級以上 無し
肢体不自由(上肢) 2級以上 無し
同上(下肢) 6級以上 無し
同上(体幹) 5級以上 無し
同上(脳原性運動機能障害:上肢機能) 2級以上 無し
同上(脳原性運動機能障害:移動機能) 6級以上 無し
心臓機能障害 4級以上 無し
じん臓機能障害 4級以上 無し
呼吸機能障害 4級以上 無し
ぼうこうまたは直腸の機能障害 4級以上 無し
小腸機能障害 4級以上 無し
ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害 4級以上 無し
肝機能障害 4級以上 無し
知的障害者
交付要件 有効期限
療育手帳の障害の程度欄が「A」であること 無し
精神障害者
交付要件 有効期限
精神障害者保健福祉手帳の障害区分が「1級」であること 無し
難病患者
交付要件 有効期限
特定医療費(指定難病)助成制度対象者、及び小児慢性特定疾病医療費助成制度対象者 無し
高齢者
交付要件 有効期限
介護保険被保険者証の要介護状態区分が「要介護1」以上であること 無し
妊産婦
交付要件 有効期限
母子健康手帳交付日から産後1年までの方 交付要件に該当する期間
けが人等
交付要件 有効期限
医師の証明付きのけが等により歩行が困難で駐車場の利用に配慮が必要な方 1年の範囲内で必要と認められる期間

利用証の種類

石川県の場合、交付される利用証として次の3種類がある。

車いす使用者等用
 
車いす使用者等用の利用証
車いすを使用しない
障害者、高齢者等用
車いす使用者等用の利用証
妊産婦、けが人等用
(有効期限有り)
妊産婦、けが人等用の利用証

利用証申請方法

利用証の申請方法には、次の2種類がある。

窓口

申請書に必要事項を記入し、交付要件を確認するための次の書類原本を持参の上、申請窓口(市町村役場の福祉関連の課等)で手続を行う。

区分 確認書類
身体障害者 身体障害者手帳
知的障害者 療育手帳
精神障害者 精神障害者保健福祉手帳
難病患者 特定医療費(指定難病)受給者証、小児慢性特定医療費医療受給者証
高齢者 介護保険被保険者証
妊産婦 母子健康手帳
けが人等 医師の証明書等

補足として

  • 利用証は原則即日交付となる。
  • 申請手数料は不要。
  • 代理申請も可能(代理人の身分証明書提示要)。
  • 申請書は窓口に置いてあるが、WEBサイトからも入手可能。なお、石川県の場合はコチラから入手可能。
郵送

申請書に必要事項を記入し、交付要件を確認するための書類写しを添付して、各地方自治体の郵送受付先へ郵送する。

補足として

  • 申請者へ利用証を郵送するための切手140円を同封すること。
  • 申請書はWEBサイトから入手可能。なお、石川県の場合はコチラから入手可能。

利用証の掲示方法

「障害者等用駐車区画」を利用する際は、交付された利用証をルームミラーに吊り下げ、車外から見えるように掲示する。

ルームミラーに吊り下げた利用証の車

なお、利用証は対象者が運転している場合だけでなく、同乗している場合にも使用することができる。また、本制度は利用証を掲示しない駐車には罰則はなく、それが健常者による不適正利用であっても同様である。

海外との比較

海外に於けるパーキングパーミットに相当する制度は、多くの国が国(又は州)の制度として導入している。EUに於いては、EU内の移動支援としてEU共通の障害者用駐車カード制度があり、利用者は居住国だけでなく駐車が必要な国を届け出れば、専用駐車区画を利用できる。

一方日本に於いては、各地方自治体毎に制度を定め利用者証を発行しているので、同様な制度であるものの各地方自治体で名称が異なり、全国で統一された制度になっていない。また、現時点(西暦2018年2月)に於いて本制度を導入していない自治体も少なくなく、2020年のパラオリンピックを控えている東京都ですら導入していない。

なお、本制度を導入している各地方自治体間で利用証の相互利用が可能となっているので、ある地方自治体発行の「利用証」を持っていれば、他の地方自治体に於けるパーキングパーミット制度の利用可能要件を認識していなくても、他の自治体の「障害者等用駐車区画」に気兼ねせず駐車することができる。

所見

従来型障害者区画に於いて、健常者と思われる方の車が駐車された状態を度々見かけることがあり、その場を目撃した私の感情は非常に不快になっていた。しかし、その時の状況を客観的に判断すると、赤の他人である私が障害者か否かの判断できない車に対し、不快に感じていたに過ぎない。そう考えると特に外見上障害者と判断できない障害者等が、他人の目が気になり障害者等用の区画の利用に気兼ねする気持ちが良く理解できる。そう言う方に対し地方自治体が後ろ盾になっている利用証の存在は大きいと思う。

本制度により、従来型障害者等用区画に比べ障害者等の区画であることが判断し易くなった。このことは、不適正利用をする健常者の言い訳に成りがちな「障害者等の区画であることに気付かなかった」との主張がし難くなった。それでも不適正利用してしまう健常者は心臓に毛が生えている人物に限られ、私が本制度の仕組みを知った時は不適正利用者の減少効果が十分にあると感じた。しかし、パーキングパーミット制度を導入している、ある施設管理者に話を聞くと、効果はあるものの現状3割程度の不適正利用者がいるとのことであった。ここの駐車場は県が求める看板等の表示だけでなく、障害者等用区画に近づいた人間を自動的に感知し警告のアナウンスが流れる設備を設置しているにも関わらず、この状況である。私の見方が甘いのか、世の中には心臓に毛が生えた人物が結構多く、不適正利用者の問題は根深いようだ。

本制度の存在を知った当初、制度の趣旨は利用証のない車を排除するものであり、制度を導入している地方自治体は、そこに向かっているのかと思った。しかし、この件を県担当者に確認してみたところ、健常者を排除するもので、利用証を持たない障害者等を排除するものでなく、今後もその方針を変えるつもりはないとのこと。利用証を持たない障害者、けが人等もいる実情を踏まえれば、利用証で切り分けるのは現実的でないことは十分理解できるが、その一方で利用証で厳格な切り分けをしないことには不適正利用者をなくすことは難しいと感じる。

今後、本制度が更に普及し障害者等用駐車区画の数も増えて行き、また施設管理者の努力等により不適正利用者の割合も減って行き、障害者等の利用も、よりし易くなると思われる。しかし、各駐車場の諸事情により、新たに「障害者等用駐車区画」を設置するのは容易なことでなく、数を増やすにも限界があり、また今後も高齢化率が上昇し、高齢者による利用証交付者数も増加して行くのは明らかである。現状に於いて不適正者の利用がなくなれば、適正者の利用に支障をきたさない区画が確保されているのか把握していないが、例え確保されていたとしても、将来に於ける障害者等用駐車区画の不足が懸念される。

また、各地方自治体間で相互利用は可能であるが、各地方自治体毎に、利用証対象要件、制度の名称、利用証のデザイン、及び区画での表示方法が異なり、利用者とって分かり易い制度になっているとは思えない。

以上の問題は石川県特有のものでなく、また導入していない地方自治体も少なくない状況を踏まえれば、まず国の制度として確立し、各自治体である程度柔軟な運用ができるような仕組みになるべきと考える。

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