契約不適合責任の解説

民法には「債権法」と呼ばれている規定があり、契約等に関する最も基本的なルールが定められている。この債権法の規定は、西暦1896年(明治29年)に制定されたもので、これまで実質的な改正が殆どされてこなかった。この124年もの間に、社会・経済情勢が大きく変化していること、また裁判に於いて多くの判例法理が形成されていることから、それらに対応するため民法(債権法)の改正(2020年4月1日施行)が行われた。

この改正民法で、新たに生まれた用語として「契約不適合責任」があり、不動産取引で大きな影響を与えることから、契約不適合責任について解説する。

当然のことであるが、購入した目的物に欠陥があれば、売主は買主に対し責任を負わなければならない。旧民法では不動産のような目的物から発見された欠陥のことを「瑕疵」と言い、その責任のことを「瑕疵担保責任」と言っていた。ただ、「瑕疵」と言う表現自体が一般に馴染みがないこともあり、改正民法では「瑕疵」を「契約不適合」に、「瑕疵担保責任」を「契約不適合責任」と言うことになった。

一見すると「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」と名称のみが変わったかのようにも思われがちだが、欠陥に対する考え方が根本的に変わり、それに伴い規定内容も色々と変わっている。そのため、変更内容を十分理解しておかないと不動産取引で損害を被るリスクがあることから、本解説では単に契約不適合責任を解説するのでなく、従来の瑕疵担保責任の違いが分かるように解説している。

その一方で、従来の「瑕疵担保責任」自体を知らなく現在の「契約不適合責任」の内容のみを知りたい閲覧者にとっては、「瑕疵担保責任」の文面自体邪魔になることから、「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」を極力混在させない文章にし、「瑕疵担保責任」など旧法律に関する文面は 水色タブボックス内で解説してある。よって、従来の法律規定に関心のない方は、水色タブボックスを読み飛ばされたし。

また本解説では、改正(2020年4月1日施行)前後の法律を区別するために、改正前の法律を「旧民法」のように語頭に「旧」を付け、改正後の現法律を「民法」のように語頭に何も付けていない。

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欠陥に対する考え方

「不特定物」、「特定物」※1 に関わらず、売主・買主共に欠陥のない目的物を前提に取引に臨んでいるのは明らかなことから、契約の内容に適合した目的物を引渡す必要がある。従って、特定物である不動産も、欠陥があれば売主は債務不履行責任を負うことになる(契約責任)。

この契約の内容に適合しない場合の売主の責任のことを「契約不適合責任」と言い、買主は売主に対し次の責任追及の手段が認められている。

なお、「契約不適合責任」の欠陥とは、「引渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないもの」であるが、目的物が不動産の場合は、主に「品質」に関することになる。つまり、不動産取引に於ける契約不適合責任では、主に品質に関する責任が問われる※2

なお、現時点に於いて、この責任追及の対象になる欠陥は、欠陥の発生時期が契約締結前でなく引渡し前のものと言う考えもあり、引渡し前であれば契約締結後も対象となる可能性がある。

旧民法

旧民法では「不特定物」と「特定物」※1とでは扱いが異なっていた。

不特定物の取引で欠陥があった場合は同じ種類の物と交換あるいは修理をしなければならない。もし売主が対応しなければ、債務不履行責任を負う必要がある。

一方、不動産のような特定物の取引で欠陥があった場合は代わりがきかないのでそのまま引渡せば、売主は債務の履行を果たしたことになり、債務不履行責任を負う必要がない。ただ、これだと当事者間のバランスが余りにも悪いので、例外的に別途「瑕疵担保責任」(法定責任)を設けて、隠れた瑕疵であれば、買主は売主に対し次の責任追及の手段だけが認められていた。

  • 損害賠償請求
  • 契約解除(契約目的が達成できない場合のみ)

なお、この責任追及の対象になる欠陥は、欠陥の発生時期が契約締結前のものである。従って、引渡し前であっても契約締結後であれば対象外であった。

責任追及手段毎の解説

以下に、不動産取引に於いて契約不適合責任に対する買主が行える責任追及について手段毎に解説する。

追完請求権[民法562条]

購入した不動産に契約不適合を発見した場合、買主は売主に対し不動産の修補※3 を請求できる。

例えば、購入した住宅に住んでみて雨漏りが見つかった場合は、売買契約書に雨漏りに対しどのように扱うか何も記載されていなければ契約不適合となり、買主は売主に対し「雨漏りを直して」と請求できると言うことである(何を当然のことを述べているのかと思うかもしれないが、旧民法は異なっていた)。

なお、買主の追完請求権の行使は、買主に帰責事由があれば請求できないが、売主に帰責事由がなくても請求できる。

旧民法

瑕疵担保責任では、買主が欠陥を発見した場合、まずその欠陥が買主に取って隠れた瑕疵であったか否かが問われた。隠れた瑕疵に限り、損害賠償請求、(解約目的が達成できなければ)契約解除することができるものの、旧民法の規定に従えばこの追完請求(修補請求)権の行使ができなかった。

代金減額請求権[民法563条]

買主が契約不適合に対し相当の期間を定めて上記修補の催告をしても売主が応じないい時は、買主は売主に対し、不適合の程度に応じて代金減額を請求できる(これも当然のことを述べていると思うかもしれないが、旧民法は異なっていた)。

原則修補の催告が要件となるが、修補が不可能であったり、売主が修補しない意志を明確に示した時のように、売主に修補の機会を与えても無駄な場合は、催告せずに代金減額を請求できる。

注意点として、買主が代金減額請求権を行使してしまうと、修補だけでなく、この後で解説する「損害賠償請求権」や「解除権」を行使できなくなる。と言うのも、代金減額を引換えに損害を解消している筈であり更に損害賠償請求をするのは矛盾し、また契約を肯定しているから代金減額をしている筈であり、それに反し契約解除することは矛盾していることになるからである。従って買主の立場に立てば、安易に代金減額請求権を行使せずに、他の3つの手段で責任追及することを考えるべきである。

なお、買主の代金減額請求権の行使も、買主に帰責事由があれば請求できないが、売主に帰責事由がなくても請求できる。また利益範囲は、「信頼利益※4 」に留まる。

旧民法

瑕疵担保責任では、代金減額請求権もなく、上記の追完請求権と同様に、隠れた瑕疵に限り損害賠償請求・契約解除することができた。

損害賠償請求権[民法415条]

購入した不動産に契約不適合があれば債務不履行と判断され、買主は売主に対し債務不履行責任として通常(民法415条※5)の損害賠償を請求できる。ただ、売主に帰責事由がない※6場合は、売主は損害賠償責任を負う必要がない[民法415条1項の但書き]

また、改正民法では通常の損害賠償請求が適用されるので利益範囲は「履行利益※4」まで及ぶ場合がある[民法415条2項]

なお、「代金減額請求権」と「損害賠償請求権」は、どちらも金銭的な請求権であるものの、次の違いがあるので注意されたし。

比較項目 代金減額請求権 損害賠償請求権
売主の帰責事由 不要 必要
利益の範囲 信頼利益 履行利益に及ぶ場合有
解除権の行使 不可 可能
旧民法

瑕疵担保責任でも損害賠償請求権があったものの、瑕疵担保責任が例外的な制度であったので通常の損害賠償請求と異なり、次のとおりであった。

  • 売主は無過失責任となり、買主は売主に帰責事由がなくても損害賠償請求ができた。
  • 損害賠償請求の利益範囲は、「信頼利益※4」に留まっていた。

解除権[民法541条(催告解除)、542条(無催告解除)]

購入した不動産に契約不適合があれば債務不履行と判断され、買主は売買契約を解除することができる。この場合、代金減額請求の時と同様に、買主は売主に対し相当な期間を定めて「修補の催告」をしておく必要がある。但し、売主に催告して修補の機会を与えることが無意味であれば、無催告解除ができる。なお、修補の機会を与えることが無意味か否かは、実務では明確にならないケースもあるので、催告解除をしておいた方が無難である。

また、買主が契約目的を達成できる契約不適合の場合でも、債務不履行が「軽微」でなければ、買主は解除できる。買主は解除できる範囲が旧民法に比べ広がったと言えるが、これはあくまで民法上の話であり解除権の乱用を避けるために、売買契約書に於いては改正民法施行前に合わせ「契約目的が達成できない場合に限り解除できる。」旨の特約が付いている可能性が高いと推測する。

なお、買主の解除権の行使は、買主に帰責事由があればできないが、売主に帰責事由がなくてもできる。

旧民法

瑕疵担保責任にも解除権があったが、契約不適合責任と異なり、契約目的が達成できないときのみに認められ、売主の帰責事由が必要であった。

契約不適合責任を追及できる期間

不動産に契約不適合があれば、買主は売主に対し契約不適合責任を追及することになるが、追及できる期間が定まっている。まずは民法566条で規定している期間があり、その規定に消滅時効の制限が加わり、更に売買契約書の特約により民法566条の期間を変更できる。また、売主が宅建業者の場合は別途厳しい制限がある。

以下、これらについて順を追って解説する。

民法566条の規定期間

買主が購入した不動産(の種類又は品質)に契約不適合を発見した場合は、売主に対し発見から1年以内に通知しておかないと、契約不適合責任を追及できなくなる。見方を変えれば、1年以内に取り敢えず「通知」だけしておき、4種類のどの手段で責任追及するかの決定は早急に行う必要がないと言うことである。なお、売主が不動産引渡しに於いて、契約不適合を知っていた又は重大な過失で知らなかった場合は、1年以内の規定が適用されない。

この「通知」とは、欠陥を抽象的に伝えるのみでは不十分で、種類範囲を伝える必要がある。また、通知の期間1年規定は、不動産の種類と品質に対する制限で、数量や権利の契約不適合に対しては1年規定が適用されない。

消滅時効の期間制限

上記で述べた1年以内の通知をしておけば、訴訟提起等の行使を長期間先延ばししても良い訳でない。通知は時効の完成猶予や更新※7事由に当たらなく、先延ばしていると債権の消滅時効により買主の権利が失われることになる。

民法の於ける債権の消滅時効は、次のどちらかを満たせば成立する[民法166条]

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間 右矢印 不動産の買主が契約不適合を発見してから5年間
  • 債権者が権利を行使することができる時から10年間 右矢印 不動産の引渡しから10年間

契約不適合の発見時期と消滅時効の関係は、次の4パターンがあり具体例で示す。

引渡しから3年で発見した場合
消滅時効の引渡しから10年間制限を受けないパターンである。
通知の期限
発見から1年[民法566条] 右矢印 民法566条により引渡しから4年(3+1年)までに通知する必要があり、この4年は消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まるので問題なし。
行使の期限
発見から5年[民法166条] 右矢印 民法166条により引渡しから8年(3+5年)までに行使する必要があり、この8年は消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まるので問題なし。
引渡しから8年で発見した場合
行使が消滅時効の引渡しから10年間制限を受けるパターンである。
通知の期限
発見から1年[民法566条] 右矢印 民法566条により引渡しから9年(8+1年)までに通知する必要があり、この9年は消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まるので問題なし。
行使の期限
発見から2年[民法166条] 右矢印 民法166条により発見から5年間が認められているものの、それだと引渡しから13年(8+5年)となり消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まらくなるので、発見から2年に制限される。
引渡しから9年11ヶ月で発見した場合
通知・行使共に消滅時効の引渡しから10年間制限を受けるパターンである。
通知の期限
発見から1ヶ月[民法166条] 右矢印 民法566条では発見から1年以内の通知が認められているものの、それだと引渡しから10年11ヶ月(9年11ヶ月+1年)となり消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まらくなるので、発見から1ヶ月に制限される。
行使の期限
発見から1ヶ月[民法166条] 右矢印 民法166条により発見から5年間が認められているものの、それだと引渡しから14年11ヶ月(9年11ヶ月+5年)となり消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まらくなるので、発見から1ヶ月に制限される。
引渡しから11年で発見した場合
通知及び行使する権利を失っているパターンである。
通知及び行使の期限
期限0、つまり手遅れ[民法166条] 右矢印 発見が引渡しから11年なので、消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]を過ぎており既に消滅時効が完成している。

特約による期間変更

民法566条は任意規定※8であり、実際の売買契約書には買主にとって民法の規定より厳しい期間の特約が付いていることが十分有りえるため、買主は特約内容に注意する必要がある。

例えば、特約「契約不適合責任の通知期間を引渡しから3ヶ月とする。」が付いた売買契約書を締結ていた場合に於ける契約不適合の発見時期と消滅時効との関係を幾つかの具体例で示すと次のとおり。

なお、期間を短くするだけでなく、期間0の免責特約を付けることも認められる。ただ免責特約が付いていても、売主が知っていたにも関わらず買主に告げなかった契約不適合に関しては、免責することはできない[民法572条]

引渡しから2ヶ月で発見した場合
通知が特約の3ヶ月制限を受けるパターンである。
通知の期限
発見から1ヶ月(特約) 右矢印 民法566条により発見から1年以内の通知が認められているものの、それだと引渡しから1年2ヶ月(2ヶ月+1年)となり特約の引渡しから3ヶ月に収まらくなるので、発見から1ヶ月に制限される。
行使の期限
発見から5年[民法166条] 右矢印 民法166条により引渡しから5年2ヶ月(2ヶ月+5年)までに行使する必要があり、この5年2ヶ月は消滅時効の引渡しから10年間[民法166条]に収まるので問題なし。
引渡しから4ヶ月で発見した場合
通知及び行使する権利を失っているパターンである。
通知の期限
期限0、つまり手遅れ(特約) 右矢印 発見が引渡しから4ヶ月なので、特約の引渡しから3ヶ月を過ぎており、通知が認められず。
行使の期限
期限0、つまり手遅れ(特約) 右矢印 特約の通知期間内に通知していないので行使が認められず。

売主宅建業者の期間制限

売主が宅建業者の場合は、宅建業法40条(強行規定※8)が適用され、上記とは別の次の厳しい制限を受ける。

契約不適合を通知できる期間を引渡しから2年以上にする特約を除き、買主が民法より不利になる特約は無効となる。無効になった場合は原則に戻り、買主は契約不適合の発見から1年以内に通知すれば良いことになる。但し、買主も宅建業者の場合は、これが適用されないので買主が不利になる特約も可能となる[宅建業法78条2項]

旧民法

瑕疵担保責任では瑕疵を発見から1年以内に損害賠償請求権又は解除権を「行使」しなければならなく、1年以内に通知していても、行使せず発見から1年が経てば行使できなくなっていた。

また、旧民法の債権の消滅時効は、債権者が権利を行使することができる時から原則10年間と定めた上で、例外的に職業別の短期期間が定まっていたりして、期間がまちまちであった。なお、瑕疵担保責任では、判例により債権の消滅時効が適用され、不動産の引渡しから10年間であった。

免責特約

契約不適合責任は任意規定※8である。売主に有利になる契約不適合責任の全部又は一部を免責する特約は民法上可能である。但し、売主が知りながら告げなかった契約不適合に対する免責特約については免責できない[民法572条]

例えば、「契約内容に適合しなくても売主は責任を負わない」特約を付けていても、売主は雨漏りがあることを知っていたのであれば、雨漏りに関しては契約不適合責任を負わなければならない。なお、知っていた売主が雨漏りの免責を受けるには雨漏りがあることを買主に告知するだけでは不十分であり、買主が雨漏りを容認し購入した旨を特約等に記載しておくべきである。

旧民法

瑕疵担保責任も任意規定であり、免責特約が有効であった。ただ、上記の雨漏りを知っていた売主の場合は改正民法と異なり、買主にその旨を告知して契約すれば隠れた瑕疵に当たらなくなるので免責できた。

危険負担

危険負担とは、双務契約を締結した後に、一方の債務が債務者の責めに帰すことが出来ない理由で消滅し履行不能になった場合、対価関係にあるもう一方の債務はどうなるのかという問題のことである。

例えば不動産の売買契約を締結し引渡し前※9に、売主・買主共に帰責事由がない自然災害により、売主が不動産を引渡せなくなった(債務者が履行不能になった)にも関わらず代金請求してきた場合、買主(債権者)は内容証明を出すような煩わしい手続きの契約解除しなくても、代金支払いを拒むことができる(反対給付債務の履行拒絶権:民法536条)。

また、履行不能となった場合は、例え売主(債務者)に帰責事由がなくても、買主(債権者)は「債務不履行」を理由に無催告解除(民法542条)することができるので、代金支払債務を確定的に消滅したければ契約解除すれば良い。

旧民法

不動産のような特定物は、売主の債務が履行不能になっても、買主の債務は消滅しなかった。つまり、滅失により不動産が引渡されなくても、買主が危険負担を負い、代金を支払う必要があった(危険負担の債権者主義)。この旧民法の規定はバランスが悪いため、実務では売買契約書に特約を付け、売主が危険負担を負うようにしていた。

契約不適合責任の要点(瑕疵担保責任と比較)

これまでの解説を元に契約不適合責任の要点を整理すると共に旧民法の瑕疵担保責任と比較すると、下表のとおりとなる。

比較項目 契約不適合責任 瑕疵担保責任
法的性質 契約責任(債務不履行責任) 法定責任
目的物 特定物(不動産など)と不特定物 特定物 (不動産など)
対象の欠陥 契約不適合 隠れた瑕疵
欠陥の発生時期 引渡しまでに発生 契約締結までに発生
買主の追及手段
[売主の帰責事由]
追完請求[不要]
代金減額請求[不要]
損害賠償請求[必要]
解除[不要]
※①と③の併用可、③と④の併用可
損害賠償請求[不要]
解除[不要]
※①と②の併用可
金銭的請求権
の利益範囲
  • 代金減額請求右矢印信頼利益まで
  • 損害賠償右矢印履行利益に及ぶ
  • 損害賠償右矢印信頼利益まで
解除の要件 債務不履行が軽微でない 契約目的が達成できない
規定の種類 任意規定 任意規定
免責方法
  • 契約不適合責任の免責特約

    但し、売主が知っていた部分は無効

  • 買主に知っている欠陥を告知し容認
  • 瑕疵担保責任の免責特約

    但し、売主が知っていた部分は無効

  • 買主に知っている欠陥を告知
行使のための期限 欠陥を知った時から1年以内に通知 欠陥を知った時から1年以内に行使
行使の消滅時効
  • 引渡しから10年、又は
  • 欠陥を知った時から5年
  • 引渡しから10年

民法以外の関係法律

民法以外にも契約不適合責任に関する規定を謳っている関係法律として、「宅建業法」、「商法」、「消費者契約法」、「住宅品質確保法」及び「住宅瑕疵担保履行法」があり、以下にそれらの法律についても述べておく。

今回の民法改正に伴い、基本的には用語の名称が変ったに過ぎず、規定内容そのものは新旧殆ど違いがない。従って、ここでは今回の改正内容と言うよりは、不動産取引で影響のある規定について新しい名称を使った解説となる。

宅建業法[40条(強行規定)]

宅建業法とは、宅建業者に対し制限を定め、一般人の消費者を保護する法律である。

先に述べたとおり、民法で規定している契約不適合責任を追及できる期間は任意規定なので、民法と異なる特約も有効であるが、売主が宅建業者で買主が消費者の場合、強行規定の宅建業法40条が適用されるので、そうはいかない。

40条の規定内容については、「売主宅建業者の期間制限」を参照されたし。

旧宅建業法

引渡しから2年以上となる特約以外、買主が民法より不利になる特約は無効となることは改正宅建業法と変わらない。この時の不動産の欠陥を担保すべき責任の判断基準が、旧宅建業法では「契約不適合」か否かでなく、「瑕疵」か否かであった。

商法[526条(任意規定)]

商法とは、商人が営業、商行為その他商事について定めた法律である[商法1条1項]

「商人」とは自己の名をもって商行為をすることをとする者のことで[商法4条1項]、宅建業者も商人である。

宅建業者が注意しなければならないのは、商法526条であり、当事者(売主・買主)が商人であれば適用され、規定内容は次のとおり。

商人間の売買に於いて、買主は物件の引渡し後に遅滞なく検査する義務があり、これにより契約不適合を発見したら直ちに売主に通知しなければ、あるいは遅くとも引渡しから6ヶ月以内に契約不適合を発見し直ちに売主に通知しなければ、売主に対し契約不適合を追及できなくなる。

宅建業者が陥り易い具体例を挙げる。

宅建業者でない株式会社A(商人)が所有している土地を宅建業者B(商人)に売却し、宅建業者Bは消費者Cに転売したとする。この時の契約不適合責任追及期間に関する特約については、AB間(商人間)の契約には付けておらず、BC間の契約には宅建業法40条の適用を受けることから2年間の特約を付けていたとする。

その後、消費者Cが購入した土地に建物を建てるために地中を掘ると産業廃棄物を発見する。発見したタイミングは、消費者Cが宅建業者Bから引渡しを受けて3ヶ月後であり、宅建業者Bが株式会社Aから引渡しを受けて8ヶ月後のことであったとする。

消費者Cは引渡しを受けて3ヶ月であり特約の2年以内であることから、売主である宅建業者Bに対し契約不適合責任の追及が可能であり、宅建業者Bは責任を負わなければならない。一方宅建業者Bは引渡しを受けてから8ヶ月であり、民法(566条)の知った時から1年以内であり、かつ債権の消滅時効[民法166条]も成立していないので、売主の株式会社Aに対し契約不適合責任を追及したとする。しかし、既に手遅れで株式会社Aから商法の6ヶ月を根拠に拒否されることになる。

このケースに於ける宅建業者Bの対策としては、次のことが考えられる。

  • 株式会社Aから購入した時に直ちに契約不適合がないか調査する。あるいは
  • 商法526条は任意規定なので契約不適合責任を追及できる期間に対し特約を付け、商法の6ヶ月より長くするとか、商法526条を適用できないようにする。
旧商法

買主に目的物の検査・通知義務があるのは改正商法と変わらない。この時の不動産の欠陥を担保すべき責任の判断基準が、旧商法では「契約不適合」か否かでなく、「瑕疵」か否かであった。

消費者契約法[8条(強行規定),10条(包括的規定※10)]

消費者契約法とは、消費者と事業者との間で締結される契約について、消費者の保護を図るための特例を定めた法律である。

消費者とは、個人のことであるが個人事業者(事業として又は事業のために契約の当事者となる個人)を除く。一方、事業者とは、法人その他の団体及び個人事業者のことである。従って、個人の宅建業者が宅建業に関する契約を締結する場合は事業者になる。

誤解し易い点として、業者でない一般の個人がとして不動産を貸している場合も事業者に該当するので、不動産を貸している個人が個人に貸す場合も消費者契約法の適用を受ける可能性がある※11。また借主が法人として契約すれば、その従業員が居住するからと言って消費者として扱われることはなく事業者である。

宅建業者が注意しなければならない条文は8条と10条であり、その規定内容は次のとおり。

  • 売主事業者の損害賠償義務に対し免除等をする特約は、原則無効となる[消費者契約法8条1項1号・2号]。但し、売主事業者が修補義務又は代金減額義務を負う場合は、損害賠償の免除等にすることも可能[消費者契約法8条2項1号]
  • 買主消費者の解除権を放棄させる特約は、常に無効となる[消費者契約法8条の2]
  • 任意規定※8と異なる特約が、任意規定に比べ消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重し、かつ信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合は、その特約が無効となる[消費者契約法10条]

例えば旧法の裁判に於いて、宅建業者でない事業者が売主となった土地の売買契約で、瑕疵担保責任を行使できる期間を民法の引渡しから1年より短い3ヶ月以内とした特約が、消費者契約法10条違反として無効になった判決もある。

なお、不動産売買契約に於いて、当事者の関係による適用法律(民法・宅建業法・消費者契約法)の違いはコチラを参照されたし。

旧消費者契約法

免責特約等の無効の規定は改正消費者契約法と変わらない。改正消費者契約法では売主事業者の債務不履行による損害賠償を免除する特約が無効となっているが、旧消費者契約法では債務不履行責任とは別に瑕疵担保責任の規定があり、その隠れた瑕疵に対する損害賠償を免除する特約が無効であった。

住宅品質確保法[95条(強行規定)]

住宅品質確保法とは、良質な住宅を安心して選び、取得後も安心して住めることを目的にした法律であり、新築住宅の10年保証、住宅性能表示制度及び住宅専門の紛争処理体制について定めている。

なお、「瑕疵」を種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態(契約不適合)と定義[2条5項]した上で、「瑕疵」と言う用語を条文に残している。つまり、条文上は「隠れた瑕疵」が「瑕疵」と言う表現に変わり、瑕疵の定義が契約不適合に変わった。

10年保証を謳っている住宅品質確保法95条の規定内容は次のとおり。

新築住宅の売買契約に於いて、売主は引渡しから10年間、瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負わなければならなく、これに反する買主に不利なる特約は無効となる。詳細はコチラを参照たれたし(なお、リンク先の文面は、民法改正前に作成したものなので、改正民法施行後は、『隠れた瑕疵』を『瑕疵[契約不適合]』と読み替え、「発見してから1年以内の『行使』」を、『通知』と読み替える必要がある)。

旧住宅品質確保法

新築住宅の10年保証は改正住宅品質確保法と変わらない。この10年の保証の判断基準が、改正住宅品質確保法の「契約不適合」か否かでなく、「隠れた瑕疵」か否かであった。

住宅瑕疵担保履行法[11条、13条、14条、17条]

上記の住宅品質確保法で述べたとおり、新築住宅の買主は少なくとも引渡しから10年間の瑕疵担保責任を行使できるようになっている。しかし、長い10年の間に売主側の会社が倒産したり、業績が傾き損害賠償請求等に対応できる資力がなくなっている可能性もある。このような事態を対処するために住宅瑕疵担保履行法がある。

この法律では、売主側が万が一、資力がなくなっても瑕疵担保責任を履行できるように、資力確保措置(保険への加入または保証金の供託)が義務付けられている。

なお、「瑕疵」は住宅品質確保法の定義を引用[2条2項]するので、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態(契約不適合)のことを言う。

旧住宅瑕疵担保履行法

資力確保措置が義務付けられいることは変わらない。また「特定住宅瑕疵担保責任」についても住宅品質確保法の「瑕疵担保責任」のことを指すことも変わらない。

実務上の注意点

以上の解説で分かるように、瑕疵担保責任から契約不適合責任に変ったことにより、売主に厳しく買主に優しくなった。特に不具合等の欠陥が発生し易い中古住宅の場合、売主はこれまで以上に契約内容に注意を払う必要がある。

そこで、主に売主の立場になって、実務上の注意点として「改正に潜むリスク」と「容認特約の重要性」について述べる。

改正に潜むリスク

実務上の不動産取引に於いて契約不適合責任をそのまま適用されると、場合によっては売主に過度の責任を負わなければならないリスクがある。改正民法で売主の責任が重くなっているにも関わらず、旧民法の感覚で契約に臨んだために潜んでいるリスクに気付かず、想定外の損害を被ることも考えられる。

旧民法の瑕疵担保責任と同様に、契約不適合責任の規定は「任意規定」であり、契約不適合責任の規定に反し、売主責任を軽減させたり免責させる特約は、当時者が合意すれば有効となる。そこで、売主がリスクを回避するには、売買契約に特約等を設ければ良いことになる。

私が気になったリスクの具体例を挙げると次のとおり。

損害賠償絡み

上記の損害賠償請求権で述べた通り、損害賠償の利益の範囲が「履行利益」まで及ぶ可能性があり、旧民法の瑕疵担保責任より売主の責任範囲が広がっている。そのため、買主の購入目的を理解した上で特約等を設ける必要がある。例えば、買主は転売目的であった場合、その差額利益まで責任を負えないのであれば、損害賠償を従来の信頼利益までにしたり、損害賠償金額の上限を設定しておくなどの対処が必要となる(なお、買主の利益を一方的に害する上限の設定は、消費者契約法10条違反として無効になると思われるので注意要)。

現実的には履行利益まで及ぶには色々な要件がありハードルが高いようであるが、だからと言って民法上履行利益に及ぶ可能性がある以上、十分な注意が必要と考える。

契約解除絡み

上記の解除権で述べた通り、解除権を行使できるのは、旧民法では(売主の帰責事由が不要であるものの、)契約目的が達成できない時に限られていたが、改正民法では(売主の帰責事由が必要であるものの、)軽微な契約不適合でなければ契約目的が達成できる時も可能となった。買主からすれば契約解除し易くなり、目的達成ができるのに解除される売主にとってはリスクが大き過ぎる。このリスクを回避するには、従来どおりの「目的が達成できない時に限り解除できる」旨を定めておく必要がある。

容認特約の重要性

契約不適合責任では、契約上の合意(当事者の合意)が社会通念としてあるべき品質より優先されるようになった。

このことは、不動産取引の実務面でも契約内容が旧民法より重視されるようになり、当事者(売主と買主)が契約内容としてどのような品質を予定していたかが問題となる。裁判所が判断する場合も、当事者が契約内容としてどのような品質を予定していたかについて、契約書の記載内容を重視するのは明らかである。

そうなると契約書に欠陥に対する容認特約が詳細に記載されていれば、その内容を前提にした品質を予定していたことが分かり、契約の内容に適合していると判断され易くなる。逆に容認特約が記載されていなければ、記載されていない欠陥は契約の内容に適合していないと判断されるリスクを伴う。

また、旧民法の瑕疵担保責任では買主の善意無過失が要件であったが、契約不適合責任では善意無過失が要件でなくなった。従って、例え買主が欠陥について知っていたとしても売主は免責されない可能性がある。見方を変えれば、売主が欠陥に対し免責を受けるには、買主に対し欠陥を告知するだけでなく、その容認を得ている必要があり、この点からも容認特約の重要性を認識できる。

容認特約の参考記載例は次のとおりである。

一部免責の容認特約の雛形例

買主は◆◆を容認して契約書記載の売買代金で購入するものであり、今後、売主に対し◆◆について追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除、錯誤取消しその他一切の法律請求をすることができないものとする。

耐震基準免責の容認特約の具体例

本物件は昭和56年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震基準時の建物であり、現在の耐震基準を満たしていない。

買主は本物件が現在の耐震基準を満たしていないことを容認して契約書記載の売買代金で購入するものであり、今後、売主に対し耐震基準を満たしていないことについて、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除、錯誤取消しその他一切の法律請求をすることができないものとする。

容認事項特約の具体例

買主は、下記の容認事項を確認・承諾の上、契約書記載の売買代金で購入するものであり、今後、売主に対し容認事項について、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除、錯誤取消しその他一切の法律請求をすることができないものとする。

【容認事項】

1.本物件は昭和56年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震基準時の建物であり、現在の耐震基準を満たしていない。

2.本物件は航空機騒音防止法に基づく騒音対策区域内にあり、騒音の大きさがLden73デシベル以上とされる第2種区域になる。

3.●●氏が所有する南側隣地の石塀の一部が、本物件敷地内に越境している。

etc.

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