住宅模型と小槌

先日、約20年ぶりに不動産競売の入札を行い落札に至った。
これから何度か入札を試みる中で落札できるものもあるかなとの感覚でいたので、今回の久しぶりの入札では落札できる可能性は低いと思ってたが、蓋を開けてみると私以外に入札者がいなかった。私にとって魅力あると判断した物件を落札できたのだから、他に入札者がいなかった事はラッキーと思う反面、不動産競売の実績が乏しいだけに、他に誰も入札しなかった要因が非常に気になることもあり、また久しぶりに競売に参加してみて色々思うことがあったので、この機会に現時点の私の考え等を以下に書き留めてみる。

競売リスク

昨年末から競売物件を気に留めていたので、今回の入札前にも前向きに入札を検討していた物件が2,3あった。しかし、調査を進めると三点セットでは分からない問題点がみつかり、入札には至っていなかった。
例えば次のとおり。

  • 三点セットには記載されていなかったが「既存不適格建築物」であることが分かり、県土木に確認すると「所有者が変われば(私が落札すれば)建物の使用に制限が掛かると言われ、入札に至らず。
  • 債務者(所有者)と話して見ると、三点セットから推測する以上に相当深刻な物理的な瑕疵があることがわかり、入札に至らず。

一般の市場に於いても同様なリスクはないとは言えないものの、調査・検討する中で上記のような実態を経験すると、競売市場の特殊性もあり色々な大きなリスクが存在する可能性が高いと再認識した。

他に入札者がいなかった要因

今回、他に入札者がいなかったことは単にラッキーと捕えるのでなく、もう少し具体的な要因を考えてみた。

  1. 入札の分散
    昨年末から競売に関心を持ったので短期間のデータしか持ち合わせていないが、昨年末からの競売事件件数を見ると次のとおりである。
    • 平成28年12月21日開札 : 21件
    • 平成29年2月8日開札   : 23件
    • 平成29年3月22日開札  : 34件(私はこの開札で落札)
    • 平成29年4月19日開札  : 16件
    上記データから判断すると、私が落札した時の事件件数は最も多く、最も少ない時の2倍以上の件数である。事件件数の多さが入札者の分散を招いた一面もある。
  2. 占有者の存在
    抵当権に後れるものの賃借人と主張する占有者がいた。私自身明渡しに関し多少リスクを感じていたので、同様な考えで入札を避けた人もいたのかも?
    ただ、本事件の占有者に対する私の考えは、物件明細書に於ける裁判所書記官の認識が6ヶ月の猶予なしであったので、代金納付後速やかに引渡命令を申立てても、占有者は執行抗告(上級裁判所への不服申立て)を行わないと判断し、占有者がいることを余りリスクとして捕えなかった。この判断は、競売経験の浅い私には不安材料でもあったが、実際の結果は予想どおり占有者は執行抗告を行わず、すんなり引渡命令が確定した。なお、今回入札するに当たって状況次第では速やかに明渡しの強制執行を行う覚悟でいた。
  3. 占有者の会社
    占有者が経営する会社の登記簿謄本を見ると、現在所在地に会社が存在しないものの業種がタレント業であった。落札した物件がある加賀市は3つの温泉郷が存在する地域なので、業種から反社会的な団体の可能性もあるのかなと思ってしまったが、同様な考えで入札を避けた人もいたのかも?
  4. 占有者に合えない状況
    上記「リストの3番目」の心配もあり、入札前に占有者と会って話をしようと試みるも、競売住宅から出てこなく、心配は払拭できないまま入札することになった。同様な状況から入札を避けた人もいたのかも?
    なお、落札後に占有者と会うことができ確認してみると、夜勤により昼間寝ているため呼んでも気付かなかったようだ。反社会的な団体とは無関係だった。

競売の魅力

競売の魅力として言われているのは、一般の市場より相当安く購入できることである。しかし、私からすると、この表現は適切でなく、競売に参加したことのない人には誤解を招き易いと感じる。

「売却基準価額」(競売の売却の基準となる価額)は、評価人(通常は不動産鑑定士)の評価額を基に執行裁判所が定めている(通常は「売却基準価額」=「評価額」)。
評価人は、まず基となる通常価格(一般の不動産市場における売却可能な価格)を算出する。通常の場合、土地なら周辺の公示価格等を規準して算出し、建物なら原価法※1を使って算出している。

その上で競売市場の特殊性等(売主の協力が得られないこと、内覧できないこと、引渡しを保証されていないこと等)を考慮した「競売市場修正」率を通常価格に掛け、減価した「評価額」(つまり、「売却基準価額」)を算出している。
「売却基準価額」は、実勢価格より相当減価した価格なので、売却基準価額以下で落札できるのであれば、確かに一般の市場より相当安く購入したと言って良いと思う。しかし不動産競売は通常期間入札なので、誰もが魅力あると思うような競売物件は入札者が多くなり、それに伴い落札額は売却基準価額より相当高くなる傾向が強い。

ここで、平均的な売却基準価格と落札額の乖離率〈本投稿での「乖離率」とは、「(落札額 - 売却基準価額)÷ 売却基準価額 × 100」である。〉から、私が住んでいる石川県に於いて本当に競売物件が魅力ある安さで購入できているのか考察してみる。
平成28年に於ける全国平均の乖離率は76%であり、北信越(石川県、富山県、福井県、長野県及び新潟県)の乖離率は46%であった。
また、昨年末から石川県の評価書を見ているが、石川県の場合の「競売市場修正」率は、「0.6」である。
分析するための前提条件として、石川県の平均乖離率は北信越の平均乖離率46%と一致し、また評価額算出過程に於ける「競売市場修正」率のみを反映させていない価格は実勢価格と一致すると仮定する。

以上を基に分析する。
「売却基準価額」は実勢価格の60%となり、落札額は実勢価格の87.6%〈60%×(100+46)%〉となる。平均で捕えると、確かに実勢価格の87.6%で購入できていることになるので、競売は安く購入できると言って良いと思う。
この「87.6%」が魅力ある数値か否かについては、入札する目的等により捕え方は違うと思うが、私の場合は競売物件に於ける通常の市場にはないリスクや(落札する物件にもよるので一概に言えないものの)落札後の実際に必要な補修等の費用※2を考慮すると、87.6%では魅力を感じない。

ただ、これはあくまで平均値による判断であり、実際の開札に立ち会ってみると分かるが、乖離率は個々の物件により凄い開きがあり、乖離率がマイナス(逆乖離。つまり「売却基準価額」未満)の落札額も少なくない。

石川県の昨年末からの開札に於いて、入札者数毎に対する逆乖離物件の事件数は次のとおり。
平成28年12月21日開札
入札者数1人:3件
参考まで、最多入札者の物件は、入札者数25人、売却基準価格2,319万円に対し落札額6,280万円(乖離率:171%)
平成29年2月8日開札
入札者数1人:7件
参考まで、最多入札者の物件は、入札者数19人、売却基準価格1,388万円に対し落札額6,211万円(乖離率:347%)
平成29年3月22日開札
入札者数1人:3件、入札者数2人:2件、入札者数3人:1件
参考まで、最多入札者の物件は、入札者数16人、売却基準価格58万円に対し落札額390万円(乖離率:572%)
平成29年4月19日開札
逆乖離は、0件
参考まで、最多入札者の物件は、入札者数37人、売却基準価格4,396万円に対し落札額9,001万円(乖離率:105%)
※上記の全ての開札に於いて、入札者0人の物件も存在している。

上記データから分かるように、逆乖離は入札者が少なくないと(多くは1人)発生していない。このことは多くの人が魅力を感じなかった物件であることは明らかである。しかし観点を変えれば、調査不足によるリスクを見落とさない前提であるが、自分に取って魅力を感じ落札できれば良い訳である。

原価法は、再調達原価から減価修正を行って対象不動産の価格(積算価格)を求める手法。計算式は、「建物価格」=「再調達原価」×「延床面積」×「現価率」となる。現価率を求める方法には、「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」があるが、一長一短があることから両者を併用し、相互を補完している。
「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」ついて、昨年末から石川県の評価書を見ていて私が感じていること等を下記に示す。

耐用年数に基づく方法
  • 経済的耐用年数の求め方は、まず経済的残存耐用年数を求め、それに評価時点の経過年数(築年数)を加えて求めるのが本来の形だろうが、これまで閲覧した評価書から判断すると殆どの事件は次のことが当てはまる。
    • 経過年数が25年以下の木造では、経済的耐用年数は25年の固定である。従って、経済的残存耐用年数は、「25年 - 経過年数」となる。
    • 経過年数が25年を超えている木造では、次の2通りに分かれる。
      • 評価人が経済的残存耐用年数を定め、その上で経過年数を加えて経済的耐用年数を求めている物件。
      • 既に経済的耐用年数を経過しているとの判断から主に観察減価法等を使って現価率を定めている物件。
  • 原価法には定額法と定率法があるが、競売では定額法を使っている。
観察減価法
  • 観察減価率は、10%単位で、「0%」~「-40%」である。
  • 評価人が求めた観察減価率に対し、私には妥当なのか否の絶対的な判断はできないが、他の物件の値と相対的に判断すると疑問を持つものも少なくなく、評価人により判断基準が違い、一貫性がないようにも思える。私からすると観測減価率は曲者で、入札を検討するに当たって、注視する必要があると感じている。

「売却基準価額」を算出する際には、観察減価法も適用されているので補修費も考慮し減額されていることになるが、古い物件の場合は、経過年数(築年数)に比べ経済的残存耐用年数が非常に小さいため、計算方法から判断すれば明らかであるが観察減価法の減額は大した金額にならない。
ちなみに、先日私が落札した物件を例にすると、経過年数38年に対し経済的残存耐用年数2年で、観察減価率は(私がこれまで見てきた評価書の中で最大の)-40%であった。しかし、この時の売却基準価額上に於ける観察減価法による減額は36万円程度に過ぎず、実際の補修費には到底及ばない。

所見

今後積極的に競売に参加していくか未定であるが、今回はラッキーな面もあり落札できたものの、今後入札しても簡単に落札できないと感じている。ただ、今回のように私が魅力的と判断した物件を落札できることもあるので、調査や手続きに掛かる時間と労力が気にならなければ、リスクがある反面、面白い市場でもある。

※参考まで
「競売市場修正」率について今後気になることがる。東京23区に於いては、これまで「0.7」であったが、平成29年3月1日以降から1.14倍上昇し「0.8」になった。「競売市場修正」率が上昇すれば競売の魅力が下降するので、今後石川県も東京に倣い「競売市場修正」率が上昇して行くことにならないか気に留めておく必要がある。