久しぶりの競売(その1:昔との比較)

不動産競売は20年程前に参加したことがあったが、その後は一切入札することもなく、全く関わっていなかった。しかし、昨年末から競売で魅力ある物件が出れば入札しようと思うようになり、3点セットの閲覧が開始されると調査・検討等をするようにしていた。
20年程前なら多少競売の知識があったものの、年が経つとすっかり忘れ、更に20年前に比べ制度等も色々変わっていたので、不動産競売の知識を基礎から身に付けなければならない状態であった。

以下に、私自身の整理のためもあり昔との比較をしてみる。

管轄の裁判所

小松市とその周辺の加賀市及び能美市の競売物件は、昔は小松地方裁判所で扱っていたが、今は金沢地方裁判所に変わった。小松市在住の私にとって、競売絡みで裁判所に出向こうとすると時間が取られ大変になった。

BITシステム

昔は三点セットを閲覧するのに裁判所に出向き、手書きで要点を書き留めるか、高額のコピー代を支払って資料を入手するしかなかった。しかし、今はITの普及に伴いネット上のBIT(不動産競売物件情報サイト)から無償でダウンロードができるようになっていて、非常に便利である。

入札が認められる最低価額

執行裁判所は売却の基準となる価額を定める(評価人の評価に基づいて執行裁判所が定める価額)。昔は買受けの申出額がこの価額以上でなければ入札が認められなかったことから「最低売却価額」と言っていた。しかし、今はこの価額未満でも入札が認められるようになったことから名称が変わり「売却基準価額」と言い、また入札が認められる最低の買受けの申出額は「売却基準価額」の80%となり「買受可能価額」と言う。

内覧

昔は競売物件の内覧はできなかったが、今は内覧制度が存在する。内覧制度ができたことは何となく知っていたが、これまで入札することもなかったから詳細は全く知らなく、先日入札するに当たって内覧方法を確認しようと思い裁判所に問合せたところ、「差押債権者の申立てが要件となるので、内覧不可と思ってくれ」とのこと(おそらく「申立てをする差押債権者は現れることはない」と言っているのだろう)。
そうは言っても制度自体は確立しているので、概要くらいは理解しておきたく、手続の流れと時期について調べてみたところ次のとおりである。

  1. 差押債権者は、売却実施処分日※1を期限として、執行裁判所に対し内覧実施の申立てを行う。
    下矢印
  2. 執行裁判所は、執行官に対し内覧の実施を命じる(但し、抵当権者に対抗できる占有者がいる場合は、占有者の同意がなければ命じることができない)。
    下矢印
  3. 内覧希望の買受希望者は、執行官に対し内覧への参加の申出を行う。
    下矢印
  4. 執行官は、売却実施の時※2を期限として、内覧参加の申出をした者のための内覧を実施する。
※1 売却実施処分日

3点セットの準備が整うと、裁判所書記官は執行官に対し売却実施命令を発することになり、これを「売却実施処分」と言い、この処分が行われる日を「売却実施処分日」と言う。つまり、買受希望者が3点セットを閲覧できるようになる前の話。

※2 売却実施の時

期間入札の場合、入札期間の開始を指しているようである。なお、3点セットの閲覧開始は入札期間開始の1週間前までに行われる(金沢地方裁判所の場合は、私が経験している限りでは入札期間開始の2週間前までに行われている)。

住宅ローン

通常、金融機関が住宅ローンを組む場合、担保権(e.g. 抵当権)を設定することを条件に融資を行う。従って、一般の売買の場合、売主、買主、仲介業者、司法書士及び金融機関が一堂に会し、所有権移転登記、抵当権設定登記及び融資を同時に行い、融資と抵当権設定にタイムラグが発生しないようにしている。
一方で競売の場合、買受人が代金を納付するタイミングで所有権を取得することから、理論上は金融機関が融資を行う際に抵当権を設定できないと言うことになっており、競売は住宅ローンを使えないと昔は言われていた。
しかし、今は民事執行法が改正され、買受人と抵当権を設定しようとする金融機関の指定する司法書士等が、所有権移転等登記の嘱託書の交付を受けることにより、所有権移転登記と抵当権設定登記を同時に行うことができるようになり、昔の問題は解決し住宅ローンを使えるようになっている。
ただ、現実は金融機関が積極的でないところが多いようである。

短期賃貸借の保護制度廃止

昔は短期賃貸借の保護制度があり、抵当権に後れる賃貸借契約でも期間が短期(山林:10年以下、山林以外の土地:5年以下、建物:3年以下)であれば、抵当権者や買受人に対抗できた(期間終了後は明渡しを求めること可)。しかし今は改正法により保護制度が廃止(平成16年3月31日)され、建物であれば(土地はNG)短期か否かに関係なく、抵当権に後れる賃貸借契約は明渡猶予制度(買受人が代金納付してから6ヶ月間は、占有者が従前の賃料に基づく一定の使用対価を買受人に支払い続ければ明渡しを猶予できる制度)が適用される。※3

注意として、短期賃貸借は廃止されたものの経過措置があり、改正法の施行日である平成16年4月1日時点で存在していた抵当権に後れる短期賃貸借は従来どおり保護される。今は短期賃貸借が廃止されから10年を超えているので、今の競売には関係ない話と思う人もいるかもしれないが、改正法の施行後に更新された短期賃貸借に関しても保護は継続される。先日裁判所不動産競売係の職員と話をしていたら「短期賃貸借は(殆ど)見ることがない。」と言っていたので出くわす可能性は非常に低いのかもしれないが、論理的には現在も短期賃貸借の保護を受けている競売物件が存在する可能性があり、その場合買受人が短期賃借権を引き継がなければならなくなるので理解しておく必要がある。

また、落札した物件が短期賃借の適用を受ける場合、期間の定めがあるか否かで次の違いが発生する。

期間の定めのある場合
先順位賃借権(抵当権設定登記以前に設定された賃借権)と違い、差押後に期間が満了したときに借主は法定更新を主張できなく、賃貸借契約は終了する。
期間の定めがない場合※4
貸主(買受人)はいつでも解約の申入れができるが、借地借家法(第27条)の適用を受けるので、建物は申入れしてから6ヶ月後でないと賃貸借契約は終了しなく(参考まで、民法第617条では、建物は3ヶ月、土地は1年)、しかも解約には正当事由が必要になる。ただ、正当事由の判断には、短期賃借権であることが考慮されるようだ。

更に、上記のことから引渡命令の申立についても気に留めておく必要がある。
引渡命令(強制執行を実施するための債務名義)の申立て期間は代金納付日の翌日から起算して6ヶ月以内なので、それまでに終了しない短期賃貸借契約が存在する物件は引渡命令の対象にならない可能性が大きいようだ。
なお、申立て期間経過後に不法占有者を排除するには、本来の不動産引渡請求訴訟をするしかない。

参考までに、明渡猶予制度が適用される場合は明渡猶予期間の満了した日の翌日から3ヶ月なので、短期賃借権のように引渡命令の申立て期間が経過しているために申立てができない事態は発生しない。

※3 保護制度の廃止に伴う新たな制度

短期賃貸借の保護制度廃止に伴う新たな制度として、(6ヶ月の)明渡猶予制度以外にも、期間を限定しない明渡し不要の制度も認めらている。それは、抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度であり、概要は次のとおり。
賃借権を登記し、その登記前に登記されている抵当権を有する全ての者が同意し、同意の登記があれば、その同意をした抵当権者(買受人)に対抗することができる。これにより抵当権が実行され、落札した買受人から明渡しを要求されたとしても明渡す必要がない。
また、抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他同意により不利益を受ける者の承諾を得なければならない(e.g. 抵当権に対し、更に転抵当権が設定されていれば、抵当権者は転抵当権者の承諾を得てから同意をする必要がある)。

なお、債権者である抵当権者が賃借権に対抗力を与えることに同意するケースとしては、債務者に賃料の収益があった方が担保価値を高めることができる場合が考えられる。

参考までに、一般的には賃借権は登記されることがないが、次のことから賃借権に後れる抵当権には対抗できるようになっている。
民法からすると、借主が賃借権を第三者に対抗するには賃借権を登記しておく必要がある。なぜなら、賃借権は債権であり、登記していない賃借権は貸主に対してのみ主張できるが、第三者(買受人)には対抗できないからである(ちなみに賃借権を登記してあれば、賃借権と抵当権の権利の順位は登記の前後による。具体的には賃借権と抵当権は共に乙区であり、同一の区の場合は登記簿に記載されている「順位番号」により決定されることになる)。
しかし、貸主は賃借権を登記する義務がないので、現実は登記されることは殆どない。そのため、借主を保護(登記されていなくても借主が第三者に対抗できるように)するために、借地借家法に於いて建物の引渡しが対抗要件となっている。つまり、借主は賃貸物件を引渡されたから入居できている訳であり、引渡しの要件をクリアしていることになり、賃借権が登記されていなくても対抗できることになる。

※4 期間の定めがない場合

短期賃貸借と言う契約期間が短い賃貸借の解説に於いて、「期間の定めのない場合」について述べていること自体に違和感を感じる人もいるかもしれないが、建物の場合、当初期間の定めのある短期賃貸借契約であっても更新後「期間の定めのない」短期賃貸借に代わる場合がある(土地の場合、期間の定めのない短期賃貸借は存在しない)。その場合とは、借地借家法の法定更新である。この建物の法定更新とは、当事者が相手方に対し期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新しない旨の通知をしなかった時は、従来の契約と同一条件で、かつ契約期間は「期間の定めのないもの」として、自動的に更新されたものとみなされる更新の種類のことである。
なお、期間の定めのない契約と言っても期間には上限はある。借地借家法上は借家権の期間の上限を規定していないが、民法上の賃貸借の上限は20年なので、期間の定めのない契約の期間は20年となる。