荒地

相続土地国庫帰属制度(以下、「本制度」と言う。)が施行(2023年4月27日)されて1年を過ぎていることから、本制度の運用実績を見てみる。なお、法務省は、2023年(令和5年)12月28日から、本制度の運用状況に関する統計(速報値)を公開し、順次更新している

実績

法務省の公開情報によると、申請件数、国庫帰属件数、及び却下・不承認・取下げ件数は、以下のとおりである。なお、全ての実績データは現時点では最新の2024年(令和6年)7月31日時点のものである。

申請件数
申請総数は2,481件で、地目別※1の内訳は次のとおり。

国庫帰属件数
国庫帰属総数は667件で、種目別※1の内訳は次のとおり。

不成立件数
申請はしたものの成立まで至らないケースとして、申請の段階で直ちに却下、審査により不承認、及び申請者自ら申請の取下げがあり、各件数は次のとおり。

分類の仕方には「地目」と「種別」があり、その違い・使い分けについて当初戸惑ってしまったが、私なりの解釈は次のとおり。
「地目」とは登記所の登記官が決定した土地の主な用途のことであり、その不動産の登記簿には必ず明記されている。一方「種目」は本制度の申請先である法務局が、申請された土地の地目だけでなく現況等を踏まえて総合的に判断している筈であり、地目と(恐らく審査過程でか確定する)種目は必ず一致するとは限らない。従って、申請時は種目がまだ確定していないため、申請件数は「地目」毎に集計し、帰属件数は承認時に確定している「種目」毎に集計していると思われる。

所見・考察

上記の大まかなデータしかないが、そのデータを見て私なりの所見・考察は、以下のとおりである。
申請件数に対し、国庫帰属件数が非常に少ない
申請総数2,481件に対し帰属総数667件であり、申請に対し27%しか帰属していない。相続土地国庫帰属制度は承認の要件が幾つも設けられているので、そのことが原因かと思いたくなる。
しかし、却下・不承認総数は41件(却下:11件、不承認30件)と非常に少ないことから、別原因によるものと推測する。本制度の審査期間は、8カ月程度とも聞くが非常に長いようだ。つまり、本制度が施行されてから17ヶ月程経つが、この17カ月の間、均等に申請があったとしても、審査に17カ月の約半分に当たる8カ月掛かるとすると、申請総数の半分近くは審査中と予想できる(本制度は現在も余り周知されていないように思うが、施行当初は特に周知されていないことを踏まえると、前半より後半の申請件数が、明らかに多いと推測する)。
却下・不承認総数が少ない
本制度は厳しい承認要件が設けられており、施行当初から却下・不承認総数が多くなると予想していたので、実績(41件)は以外と少なく、承認率は高いと感じた。その理由として次のものが考えられる。
本制度は承認され国庫帰属するには負担金が発生するが、承認されるか否かに関係なく、審査手数料として1筆当たり14,000円が掛かる。従って、世の中には相続でお荷物になっている土地を所有している方が沢山いても、闇雲に申請せず、事前に数ある要件を満たし、かつ費用面からみても本制度を利用する価値があるかチェックし、申請まで至らないケースも多いと思われ、必然的に却下・不承認総数も少なくなっていると推測する(実は、私も費用面から申請まで至らなかった)。
取下げ件数が多い
上記のとおり、却下・不承認総数(41件)が予想以上に少ないが、その一方で取下げ件数が333件と非常に多い。審査中に申請者が審査結果を待たずに自ら取下げたと言うことになるが、長い審査期間中に、運用あるいは別の処分の手段が見つかったとか、審査結果待つまでもなく不承認になることが分かり、取下げている方も多いと言うことである。
このことも、承認率が高い要因の1つになっていると思われる。
種目毎の帰属件数割合
種目別の申請件数に対する帰属件数の割合は次のとおり。なお、上記で述べたとおり、地目と種目は必ずしも一致しないが、殆ど一致すると思われることから、同種類者同士は一致(地目の宅地、田・畑、山林、その他は、種別の宅地、農用地、森林、その他に一致)するものとする。

帰属割合は、宅地・農用地に比べ、森林は極端に低く、その他は極端に高い。種目別の承認率は分からないが現状は同程度に高いとすると、審査期間が、森林は長く、その他(原野、雑種地等)は短いと見ることができる。
森林は広大だし、何筆もあったり、境界が明確になっているか等、審査に期間を要するは想像できるが、種目「その他」が短い審査期間で承認される傾向があるようであるが、その理由は分からなく、機会があったら法務局に聞いてみたい。